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サイギポクラの夏休み

世間では夏休みも真っ盛りということで、夏休みのサイギポクラのSSを書いてみました。
先日絵茶で、この3人が互いに悪戯するとか罰ゲームを与えるとしたらどんなことをさせるか、という話になりまして、色々それぞれ苦手なのはどんなものなのかという想像に発展してゆきまして(笑)
その場にいた者で、サイギポクラそれぞれの「苦手」というか「トラウマ」なものを描くことに。
その前にですね、トラウマ話に発展する前の、罰ゲームネタをSSで書いてみました。

いつものように、クラウドをいじって遊ぶサイギポ……という流れにしようかと思っていたのですが、意外にちょっとはずかすぃ青春モノになったっぽいです(笑)
クラウドが普通の高校生だったらこんな感じかな、と考えながら書くのはかなり楽しかったですよウフフ。



              

 夏休みに入ってからというもの、クラウドは午前中に部活がある以外は概ね暇を持て余していた。生まれ育った地元にいた頃でさえ元々友人関係は多くはなく、まして引っ越してきたばかりのこの町では、暇を潰し合うような知り合いも少ない。
 母親は当然仕事に出ている。昼食にと言って用意してくれた簡単な食事を平らげた後は特にすることもなく、ただぼんやりとテレビを付けっぱなしにするくらいの無為な時間を過ごしていた。
 二人暮らしのため、家の中はそう広くない。それでも一人でぼんやりとしているだけだと、妙に虚ろな空間に思えてしまうのが不思議だった。
 クラウドは仕方ない、というふうに溜息を漏らして立ち上がる。
「……図書館にでも行くか」
 夏休みに入ったせいで人は増えているかもしれないが、その場所はとても静かで、少なくとも彼が苦手とする、“他人が他人に干渉する”というような煩わしさはない。クラウドはその場所が好きというより、基本的に人間関係というものが苦手だったのである。
 ―――人嫌い、と断じてしまえるほどの長い時間生きているわけでもないのに、そんな風に思ってしまうのは、まだ自分が他人との間の距離を埋めるための努力をしていないだけなのだということにも気付いてはいた。しかし素直になるという事にも、やはり並々ならぬエネルギーがいる。
 だから二つの選択のうち、彼は無意識に傷つくリスクのより少ない方を選んでしまう。

 バッグの中に何冊かノートと教科書を入れて自室を出ようとしたクラウドは、ふと机の上に置きっぱなしになっている携帯電話に目を留める。それを手にして、ほんの少しの間見つめた後、ポケットにしまった。
 多分、誰かから電話があっても出ない。必要最低限の人間にしかその番号を教えていないというのもあるが、彼にとって携帯電話というものは本来積極的に利用したいツールではないのである。

 クラウドの脳裏に、快活な表情をした幼馴染みの少女の姿が浮かぶ。彼女は時々、携帯を持ちながら電話に出ない彼に対して、苦笑しながら言った。

『出ないクセに、ソレ、手放さないんだよね』

 少女の言葉の裏には、ほんの少しの呆れが滲みながらも、その声音は柔らかかった。多分あの頃、ほんの少しお節介で優しい彼女だけが、クラウドの心を頑なにしているものの正体が見えていたのかもしれない。
 ただ、人に対して心を開くことのできない弱さを。



 外に出た途端、耳鳴りかと思うような蝉の声が辺り一面に響いて、クラウドは不快そうに表情を歪めた。
 田舎にいたときの方が圧倒的に蝉の数は多いはずなのに、都会に来た途端ひどく騒々しく聞こえるのはなぜなのかがわからない。コンクリートやアスファルトが、より騒音を反響させ、増幅してでもいるのだろうか?―――いらいらして彼の足取りは騒々しさから一刻も早く逃れたいとでもいうように、速度を増してゆく。
 図書館はバスを利用して、二つ先の停留所にある。普段なら歩いてしまう距離だが、正午の強い陽射しと、歩道が照り返す暑さや蝉の声にうんざりした彼は、仕方なくバスを利用することを決意した。
 彼はなるべくなら――いや、可能な限りは全て――乗り物には乗りたくないのだが、さすがにこんな状況では背に腹は代えられない。

 だが停留所まで行き着いたと同時に、ポケットの中に納められていた携帯が鳴り出して、彼はふと足を止めた。着信を見ると一瞬自分の目が信じられないというようにぱちぱちと瞬きする。
 そこには、最近よく学校の屋上で会う先輩の名前があったのだ。
「えっ……? サ、サイファーって……?」
 携帯はしばらく手の中で賑やかに鳴り響いていたが、クラウドが茫然と見守る中、やがて根負けしたように沈黙した。
「なんで電話がかかってくるんだ? どうやって番号が―――」
 それ以前に、自分の携帯に彼の名前が登録されている事自体があり得ないのだと言うことに気付き、クラウドは訝しそうに自分の携帯を見つめた。すると今度はその疑問に答えるようなタイミングで、着信音が響く。
 おそるおそる開いてみると、今度はギップルからだった。
「はあぁ?」

 サイファーとギップル、この二人はクラウドの通う高校の3年生である。学年も違えば部活で一緒なわけでもない、これまでまるで接点のない彼らとクラウドの関係は、本来は屋上で良く会う顔見知り同士、くらいでしかなかった。
 特に目的もなく、教室を満たす周りの雑音から逃れるためだけに訪れた屋上。そこで出会った二人は、どうやら共通の『秘密』を持っているらしく、その話をするために人気のない屋上という場所を選んでいる節があった。
 そして、人との接触が苦手なクラウドが、彼らに会うことがわかっていながらもそこに足を向けるようになったのは、彼もまた、サイファーやギップルと同じような『秘密』を抱えていたからという理由もあった。

 だが、携帯の番号を教えあった記憶はない。クラウドは茫然と握ったままの携帯を睨むようにして、電話のかかってくる可能性をあれこれ考えていたが、再び着信音が響くと、ビクッと肩を震わせる。
 小さな液晶に現れた文字は、サイファーからメールの着信を知らせるものだった。おそるおそる開いてみると、件名に「電話にでろ」と、ある。中には「電話にでないと、大変なことになるぞ」という、脅しのつもりか意味不明なメッセージと共に、画像が添付されていた。何も考えずに開いてみた瞬間、クラウドはひっくり返ったような声で叫び、慌てるあまりに携帯を取り落としそうになった。
 そこには画面いっぱいの女性の裸が映っていたのである。どうやらグラビア雑誌を写真に撮り、そのまま送りつけたようだった。
 驚いて硬直しているクラウドの元に、今度はギップルからのメールが届いた。内容はサイファーと同じ。今度は用心して画像は開かなかったものの、メッセージ文を読んだ瞬間、クラウドは慌てた。
「ちょ、『電話に出ないと、もっと恐ろしい画像をバンバン送るぞ(^o^)』って……な、何でこんなもの……」
 あたふたしている内に次のメールが届く。恐ろしいことにそのメールには『次は洋モノだからな(^_^)/』というメッセージがついていた。
 ふざけた顔文字に、余計にクラウドの神経はささくれ立つ。彼は震える手で慌てて携帯を持ち直し、履歴を開くとサイファーの携帯に電話をかけた。脅されて仕方なくというよりは、むしろ腸が煮えくりかえって、何か言ってやらねば気が納まらなかったからである。
 着信音が鳴ってすぐ、相手はでた。クラウドが根負けしてかけてくるのを待ちかねていたのか、その声は弾んでいる。
「よお、やっとかけてきたな」
「……なっ、なっ、何考えてんだあんたらはっ!!」
「お前が電話に出ないんだから、仕方ねえだろ」
「仕方なくなんかないだろっ!そんなの俺の自由だっ」
 混乱するあまりにしどろもどろだったが、クラウドが烈火の如く怒っているのも意に介していない相手は、平然と続けた。
「それよかさ、お前暇なんだろ? 今から遊びに来いよ」
「あそっ……え?遊びにって……なんで俺が?」
「だから、暇だろうなあって思ったから」
「暇じゃ、な……っ」
 と、言いかけて、クラウドは思わず言葉に詰まった。実際暇を持て余していたから、わざわざ暑い中図書館に向かっているのだ。本来なら別に、この場でサイファー達に嘘を言うことに罪悪感をもつ必要はないわけだが、彼の正直さ―――というより迂闊さは、素直に事実を露呈してしまった。
 まさにそこへつけ込むような、やや意地悪い笑いの滲んだサイファーの言葉が、クラウドを容赦なく追い込んでゆく。
「来ないと……今度は無修正のやつ送るぞ」



 いかにエロ画像をいっぱい送りつけられたのだとしても、開かずに全部捨ててしまえば済む話なのだが、迂闊にもクラウドがその事に気付いたのは、サイファーたちから指定された駅に着いた時だった。
 がっくりと項垂れながら改札を抜けると、背が高く、目立つ風貌の二人が立っているのが見えた。二人ともやけにニコニコと笑いながら、軽く手を振っている。クラウドはまるで禍々しいものに近づくような足取りで、彼らの元に歩み寄っていった。
「早かったな。外にいたのか?」
「バスに乗ろうと思って、駅前の停留所にいたから」
 おや、というふうに少し眉を上げて、ギップルが訪ねる。
「なに、どっか行くところだったの?」
「あ、うん……図書館に」
 図書館、と聞いて二人はぽかんと口を開けた状態で顔を見合わせていた。
「夏休みに図書館なんて行って、何するんだよ」
 クラウドにしてみれば、何故図書館に行くことに理由を求められるのかがわからず、困惑しつつも答えた。
「だって、夏休みの宿題やったり、本を読んだりできるじゃないか」
「「夏休みの宿題ぃ―――!?」」
 同時に二人から叫ばれて、クラウドは心底驚いて一歩後退る。サイファーとギップルは、目を丸くしている彼の表情を見、そしてそれぞれが信じられない、という風に大袈裟に肩を竦めた。
「まだ7月だぞ? 今から宿題を好きこのんでやってるなんて、お前、変態じゃねえの?」
「変態ってなんだっ!!」
 思わず大声で怒鳴り返した瞬間、クラウドは顔色を変えた。自分の声に驚いて振り返る周囲の人間の視線を感じたからである。彼はこの瞬間、自分が駅前の雑踏の中にいるのだということを本気で失念していた。
 真っ赤になって俯いているクラウドを慰めているつもりなのか、長身の二人は彼を挟むようにして肩をポンポンと叩く。
「こんな人混みの中で恥ずかしいこと言ってないで、さっさと行こうぜ。暑いし」
 ああ、ここに竹刀があれば……と考えながら、クラウドは仕方なく彼らに促されるまま歩き出した。

 サイファーとギップルに悪気が無いのはわかるのだが、時折こうしてクラウドをからかって遊ぶのを楽しんでいるところには閉口する。クラウドが意外に負けん気が強く、剣道部に所属していて腕に覚えがあるというのもあって、ただからかわれるままではすまさずに反撃し、彼らをボコボコにしたことも一度や二度ではないのだが、それでも懲りる様子はない。
 反撃する様子も愉しんでいるのか、それとも単なるアホなのか―――とクラウドは様々な可能性を考えてみたが、反面、やることの突拍子の無さから、サイファー達の真意を測るのは無理ではないかという気もしていた。
 それでも、何故か彼らに会うことに不快感はない。クラウドはそんな自分の気持ちを不思議に感じていた。ただ共通の『秘密』があるからといっても、それは別に仲間意識を高めるような出来事でもない。疑問とともに湧く微かな苛立ちのような気持ちを持て余しながら、クラウドはじっと彼らの背中を見つめる。

 
 暫く二人に先導されてぼんやりと歩いていたが、途中でギップルがコンビニに寄る、と仕草で合図したため、その後に続く。
 ひんやりとした店内の空気に人心地ついたクラウドに、ギップルが訪ねる。
「何か冷たいモンでも買ってこうぜ。アイスとか食う?」
「うん……」
 彼が指さすアイスが沢山詰め込まれた冷凍ケースの中に視線を向けると、夏らしく色鮮やかなアイスが並んでいる。その中から比較的サッパリしたものを選んで手に取ると、ギップルがソレを横から手に取り、自分の持っているカゴに入れた。
「あ、後で値段教えて」
「ああ?」
 ギップルが振り返り、苦笑いを浮かべた。
「バーカ、友達が遊びに来たときにはこんくらい出すのは当たり前だろ」
「……えっ」
 横にいたサイファーも、そうそう、と頷く。
「こういうときは、素直に奢られておくもんだぜ。二年生」
 驚いて目を丸くしているクラウドを後目に、二人は菓子の並んだ棚の方に行き、何も考えてない勢いで、わしわしと適当な菓子を掴んでカゴに突っ込み始めた。

 クラウドは心の中でもう一度ギップルの言った台詞を繰り返すと、にわかに顔を赤くする。彼にしてみれば何気なく言ったのかもしれないが、クラウドにとってそれは思いがけなく動揺を誘う、不思議な言葉だった。
 
(なんだ、俺、嬉しいって思ってるのかな)


 ギップルの住んでいるマンションに着き、リビングに入ると、クラウドはその広さに驚いてキョロキョロと周囲を見回した。
「すごっ……広いね」
 キッチンから人数分のグラスを運んできながら、ギップルが眉を顰めて言った。
「広いのはいいんだけどさ、掃除が大変なんだよ」
「えっ、アンタがやってるの?」
 そんなまめな性格でもないと、漠然としたイメージがあったせいか、クラウドは驚いて訪ねた。率直な言い方に苦笑しながら、早々とリビング中央のラグに座ってアイスを手に取ったサイファーが代わりに説明する。
「こいつの親、両方とも海外で仕事することが多くてさ、滅多に家にいないんだよ。でも、自分たちの留守中に部屋が荒れてると、スッゲー怒るからさ、こいつも渋々掃除してるってワケ」
「ま、そのかわり普段は結構自由にできるからさ、気楽っちゃー気楽なんだよな」
「へえ……」
 こんな広い家で一人で過ごす事が多いのだろうか、と考えてクラウドはちらりとギップルの横顔を見た。自分が家で一人でいる事は、さすがにそれほど寂しいとは感じないが、それでもやはり多少の気詰まりを感じて外へ出たことを考えると、ギップルの明るさにやや違和感を感じる。
「こんな広いところで一人なんて、つまんなくないの」
 思わず、素直に思った事を聞いてみるが、ギップルの返答はあっけらかんとしていた。
「別に。俺もあんまし家にいないし。いたとしても……こいつとか遊びに来るからさ」
 あはは、と笑い混じりにサイファーを指さす。この二人が従兄弟なのだということは前に聞いたことがあった。
「仲いいんだね。小さいときから一緒だったの」
 その問いには苦笑いでサイファーが答えた。
「いや~小さい頃はケンカばっかだったな。こいつ、とにかく要領がよくてさ。よく悪戯しちゃあ俺に責任ひっ被せてたりして、散々だったぜ」
「ちょっとまてよ、それじゃあまるで俺が悪人みたいじゃないか。あのな」
 どこか必死な表情でクラウドに向き直ったギップルは、手振りを含めて懸命に説明した。
「悪戯とかは二人でやったの。でもこいつはね、ただ逃げるのが遅くて見つかってただけなんだって。それをいちいち俺のせいにしてさぁ」
「おい待て、それじゃ俺がとろくさいみたいじゃねーか」
「そういうこったろ」
「なんだとコラ、もっぺんいってみろ」
 突然目の前で激しい言い争いが展開したことにクラウドが驚き、慌てて止めに入る。
「ちょ、ちょっと。なんでケンカするんだよ、やめろよ」
 二人はポカンとした表情でクラウドを見ると、ややあって笑い始めた。
「や、別にケンカってほどでも……。何心配してんだお前」
「えっ、だ、だって」
「そんな必死な顔して止めるほどでもないって」
 そう言われてクラウドは、今自分がひどく不安な顔をしている事に気付いた。他人とこんな風に言い争ったことのない彼にしてみれば、ギップルやサイファーの応酬の勢いは、見ているだけでも気詰まりになる。
 それくらい他人との折衝を避けてきたのだということを、改めて感じた。
 クラウドの内心など知る由もないはずの二人が、彼の変化に気付いて苦笑いしている。
「お前も言いたいことは言えよ」
「え……?」
 いつの間にか逸らしていた視線を彼らに戻すと、目の前に、先ほどコンビニで選んだアイスがあった。
「溶けちゃうから食え。ホラ」
「う、うん」
 カップの周囲に付いたしずくを指で払いながら蓋を開けると、すこしアイスがやわらかくなっている。それをスプーンで掬い、口に運ぼうとした瞬間クラウドは手を止めた。彼はどことなく落ち着かない様子で、しばらくもじもじとしたあと、小さな声で言った。
「いっ、……いただきます」
 奢られるのも礼を言うのもその逆も、煩わしいとしか思ったことはなかった。だからこそ彼にしてみればかなり勇気のいる言葉だったのだが、二人はクラウドの苦心など気付かずに笑っている。
「行儀いいねー」
 クラウドは赤くなった頬を隠すように顔を背けると、口を尖らせる。
「別にっ、そんなんじゃない」


 部屋の温度も快適になり汗も引いた頃、大きなテレビの前に三人揃って座ると、ギップルがいそいそとゲーム機を用意し始めた。彼は楽しそうにゲームソフトをいくつか取り出すと、ふんわりとしたラグの上に並べる。
「どのゲームにしよっか。バーチャ?」
「ここはやはりストⅡなんじゃね?」
「なあ、お前はどれがいい?」
 急にふられて驚いたクラウドが目を瞬かせる。
「え、遊びに来いって……ゲームやるため……?」
「そだよ」
 至極当然といった表情で二人が頷く。
「格ゲーだったら二人でやればいいじゃないか。わざわざ俺を呼びつけなくたってさ」
 ギップルが人差し指を顔の前に立て、ちちちと小さく舌を鳴らした。
「いやいや、ゲームは前座なわけよ。まずこれで勝敗を決めて、そっからが本番なワケ」
「本番って?」
「罰ゲームをすんの。それだったら人数いた方が楽しいだろ?」
「罰ゲーム……」
 クラウドの思いつく罰ゲームなどそう多くはない。彼は釈然としないながらもしぶしぶ突きつけられたコントローラーを握り、テレビ画面が変わるのを待った。
 ギップルのセレクトしたのはカートレースのゲームで、これなら家でもやったことがある、と安堵する。それでも少し緊張して肩を強張らせていると、対戦相手のギップルが横目でニヤリと笑った。
「負けたらなんでもいうこと聞くんだからな」
「え? なんでもって……」
「ほら、始まったぞ!」
 何か重大なことを聞き逃しているのかもしれない、と思いつつ、クラウドは画面の中で始まったレースに慌てて、思わずそちらに集中した。
 
 勝敗はあっけなくついた。予想以上にギップルはゲーム慣れしており、クラウドがあたふた街路樹にカートをぶつけているあいだに、とっととゴールしてしまったのである。
 二人の対戦をのんびりと眺めていたサイファーが、楽しそうに言った。
「よーしこれで、まずクラウドの罰ゲームが決定だな」
「へっへっへっ……何をさせようか」
 まるで生け贄を前にした魔物の如く分かり易い笑い方をしながら、彼らは何事かをひそひそと話し合っている。この段階でやっと、『罰ゲーム』というのがただならぬものではないかと思い始めたクラウドは、顔色を変えた。
「えーと、さっきここに来る前に寄ったコンビニの場所、覚えてるよな?」
「おっ、覚えてるけど……なんだよ」
 ギップルは実に嬉しそうに笑いながら、勝者の義務を果たした。
「そこに行って、熟女系のえろ本、買ってきなさい」
「はぁっ!?」
 何を言われたのか一瞬わからず硬直したクラウドに、サイファーが追い打ちをかける。
「あ、ちなみに他の雑誌とか買って間に挟むとかいう姑息な手は使うなよ? ちゃんと、えろ本一冊、堂々とレジに出すんだからな?」
「そ、そんな……」
「じゃ、いってらっしゃーい」
 じりじりと後ずさり気味になっていたクラウドは、背後にあるソファの肘掛けに縋り付いて、大声で喚きだした。
「やだ! やだよそんなのっ! 聞いてないし!」
 必死に掴まるクラウドのシャツを背後から引っ張りながら、ギップルが急かす。
「負けたら何でも言うこと聞くっていう約束だろ? ほら、とっとと行ってこいやー」
「知らないよ! OKしたわけじゃないっ」
 何度かそんなやりとりを繰り返していると、不意にサイファーの落ち着いた声が割って入る。思わずぴたりと動きを止めたクラウドが彼の方を見ると、サイファーは至極真面目な顔をして、言った。
「あのなぁ、俺はこの前コイツに負けて薬局に行かされたんだぞ」
「や、やっきょく……?」
「ああ、そんで、『ヒサヤ大黒堂のぢの薬下さい』って言って買ってきたんだからな!」
「ヒサ……」
「ぎゃはははは!」
 その時のことを思い出したのか、ギップルが急に床に転がると腹を抱えて笑い出した。
「銘柄指定だぞ! しかも単品で! ちくしょ~あの店の薬剤師のお姉ちゃんスゲー美人なのによ~……。いつもスポーツドリンクとかムースとかを買っていた俺の爽やかなイメージボロボロだぜ。それに比べたら、えろ本くらいなんだッ!」
 ギップル同様、ただしこちらに甦ったのは怒りのようだが、サイファーは半泣きの状態で当時の怒りを思い出して怒鳴っていた。クラウドはただ茫然とサイファーの激昂した状態を見ていたが、やがて堪えきれなくなり、ギップルと一緒にゲラゲラと笑い始めた。
「あははっ……あははははは!」
「コラッ! 笑うんじゃねえっ」

 だからさっさと行って来い、と言われてしぶしぶ部屋を出たものの、やはり足取りは重い。
 件のコンビニの前に着いても、しばらく前をうろうろと歩きながら、なるべく人の少なくなるのをじりじりと待っては見たが、大通りに面しているせいか客のとぎれはない。
 クラウドはコレではキリがないと観念して、思い切って中へと入っていった。
「じゅくじょって……どんなん買ったらいいんだ……?」
 雑誌コーナーに立ってあれこれ熟考するのも躊躇われ、クラウドはさっと一冊引き抜くと、小走りにレジに行って、雑誌ときっちりの小銭を叩きつけるような勢いで置いた。
 レジに入っていたのが夏休みのバイトらしき若い女性だったのが、またいたたまれない。ギップル達は予めそれも知っていて、この指定をしたのかもしれないと思うと、クラウドはさらに顔を赤くした。

(ちくしょーっ! 次は絶対絶対勝ってやるっ!! 思い切り恥ずかしい罰ゲームをやらせるからなっ)

 待ちかまえていたギップル達は、息を切らして真っ赤になっているクラウドから雑誌を受け取ると、しげしげと眺めて満足そうに言った。
「ほ~、嫌がってたわりには、なかなかのセレクトだな」
「へえ、どれどれ」
 ともすればそのまま二人でえろ本に没頭してしまいそうな雰囲気を感じて、クラウドは腹立ち紛れに大声で言った。
「何熱心に見てんだよっ! 早く次っ、次行こうぜ!」
「なんだ、やる気じゃん」
 すでにコントローラーを握っているクラウドを見て二人は吹き出し、今度はサイファーが対戦相手となった。

 その後気迫の違ったクラウドが好成績を繰り出し、それぞれが均等に罰ゲームの屈辱を味わう結果になった。
 一息入れようと、氷を入れたアイスコーヒーを飲む頃には、すでに日が傾きはじめているのにようやく気付いた。
 サイファーは額に『肉』と書かれた(むろんその状態でケーキ屋に行き、シュークリームを3個買ってこいという指令をこなしている)ままの顔で煙草を吸っていたが、ふと時計を見て言った。
「あ、お前時間大丈夫か? どうせなら飯食っていけば。ギップルって結構料理上手いんだぜ」
「え、料理もできるの?」
 頭のてっぺんにちょんまげを一個結んだ状態のままのギップルが、得意げに胸を反らした。
「まあな、ふふふ……」
 あえて謙遜も否定もしないところに多少の不安は感じたが、一人でいることも多いという環境から、上達するものなのかもしれないという考えも浮かんで、クラウドは素直に感心した。
「へえ~すごいね。あ、でも……今日は母さんに何も言ってこなかったから、やっぱり帰らないと」
「ん、そっか」
 ギップルはちらりとサイファーを振り返って目配せした後、表情を改めて言った。
「あ、じゃあ明日はどうだ? せっかくだし泊まりに来いよ。ここの近くで縁日があるんだ。一緒に行こうぜ」
「明日も……?」
 訝し気に問い直すクラウドの表情に気付いて、サイファーが訪ねた。
「なんか用事あんの」
「いや、ないけど……でも」
 もごもごと口の中で呟くように言っていたが、やがてクラウドは二人を見つめると、意を決して訊いた。
「な、なんで俺?」
 本当に他意がないのか、一瞬二人ともきょとんとしていた。やがてその表情は両者とも苦笑に変わってゆく。
「お前と遊んだら面白いかなって。それだけだ」
 サイファーがそう言うと、ギップルも頷きながら続ける。
「夏休み始まったばっかりで遊びたいのにさ、先生もいないじゃん?」
「あ……」
 クラウドは先生達が現在、他県に研修のため出かけているのだということを思い出した。3泊の研修が済んだら学校でミーティングやら会議やらで、当分忙しくなるのだとも聞いていた。
 それも、奇遇ではあるが3人の共通の『秘密』となっている、大好きな先生達が揃ってその研修の参加者なのである。
「だからさ、お前も寂しいかなって思って」
「……へ、へえ……」
 クラウドは、ここに来るまでに感じていた不思議な感情が再び胸に広がってゆくのがわかって、言葉を詰まらせる。それはすごく恥ずかしくてややこしいものだが、何故か今はとても楽しい。
 自然と浮かび始めた笑みを堪えながら、クラウドは頷いた。
「わかった。じゃあ、明日またくるよ」


 帰り道、送るというサイファー達を笑顔で制して、クラウドは駅までの道をどこか軽やかな足取りで辿った。途中、あのコンビニの前に差し掛かると、あれだけ恥ずかしい思いをしたのに何故か笑みが浮かぶ。
 
(明日はどんな罰ゲームにしようかなあ。絶対に連勝して、イワしてやる)

 自分が思った以上に楽しげな笑みを浮かべていることに気付くと、彼は照れくさそうに顔を赤くした。

(そういえば俺、あの二人には最初から、結構言いたいこと言ってたんだよな……)


     END



続くかどうかは、絵茶次第(笑)

先日絵茶で、サイギポクラがどんな悪戯(主にクラに)するのか、とか、苦手なものは何かという話で異様に盛り上がってしまいました(笑)朝の5時まで!(爆)
そんなんで、3人それぞれのトラウマを描こうかということになったんですが、その発端のお話をちょこっと書いておこうかと思ったら、これが意外に長くなってしまったといいますか……、つか、この話の続きにトラウマネタか?という気もしないでもないのですが、まあその辺はテケトーに(笑)
とりあえずサイギポクラの夏休み、です。
後で、ギップルの苦手なものをテーマに漫画を描くと思います~。
なんかSSに乗ってしまって、ギッバラの色塗り中断してしまってますので、そちらもちまちまやりつつ……(笑)


 


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